わたし好みの新刊   201612

 

『ぜんぶわかる!トンボ』 尾園暁/著 二橋亮/監修 ポプラ社

 著者の尾園暁さんも監修者の二橋亮さんも日本トンボ学会会員で,トンボ好

きの写真家とトンボ好き研究者が手を結んで生まれたユニークな本である。タ

イトルそのままの「ぜんぶわかる」は,少し過剰表現にしても,従来のトンボ

本とはかなり視点が異なり興味深い本である。

 まず,前頁の半分ぐらいのスペースをとって「オニヤンマ」の生活や形態を

大きな写真で追っていることが一つの特徴である。ヤンマはなんといってもト

ンボの中のトンボ。大型で写真に迫力がみなぎる。まずはヤンマのなわばり場面,

次はチョウの捕食場面,迫力がみなぎる。続いてメスが登場し見事なおつながり

の写真が出る。次は水面でのメスの産卵写真。

「メスは、なんどもなんども/リズムよく上下に動き、/たまごを川ぞこに

うめこんでいきます。…」

とリアルな文章がそえられている。続いてオニヤンマの死と卵からの孵化と幼

虫の誕生場面へ続く。やがて終齢幼虫のヤゴへ成長し砂にもぐって見事な捕食

ハンターへと変身する。羽化の成長過程が見事な連続写真で繰り広げられていく。

3年から4年はかかるというオニヤンマの一生がページの半分を割いてまとめ

られている。

 後半は「いろいろなトンボ」として次々紹介されていく。普通の図鑑のよう

な種毎の紹介ではなく「前ばねと後ろばねが同じ大きさのグループ」「後ろばね

が大きいグループ」「赤いトンボ」「青いトンボ」「緑色のトンボ」「ちよっとか

わったトンボ」などと,ふだん私たちが目にする視点でいろいろなトンボが登

場する。合間に「複眼のつきかた」「羽化のしかた」などの解説も入り,トンボ

の機能も紹介されている。後半にあるトンボのからだの秘密が電顕写真によっ

て見事にクローズアップされている。大型写真が多く情報量の多い本である。

                             2016,06刊 820

 

『足はなんぼん?』  板倉聖宣/著 中村隆/絵  仮説社

 この本は1970年に〈いたずらはかせのかがくの本〉シリーズの一つとして

国土社から出版された。普通の動物の本とちがって「かがくの本」の一つとし

て出版されている。著者の板倉聖宣氏は仮説実験授業という科学教育を提唱し

た人で,科学教育の専門家でもある。また科学読み物としては,この〈いたず

らはかせのかがくの本〉シリーズ『もしも原子が見えたなら』『空気と水のじ

っけん』をはじめ,『地球ってほんとにまあるいの?』『ぼくが歩くと月もある

く』『砂鉄とじしゃくのなぞ』『ジャガイモの花と実』『白菜のなぞ』など数多

くの科学読み物を執筆している人でもある。

 さて,この『足はなんぼん?』のカバーにこのように書かれている。「この

本は『動物の足の数』という,いたって単純なところに注目して描かれた絵

本です。……この本が子どもたちに動物についての断片的な知識ではなくて

「自然に対する問いかけ方」を教える絵本だからです」(「あとがき」にくわ

しい解説がある)と書かれている。このように,この本は動物の足の数を問

いながらいくつもの動物をながめていき,昆虫から動物の進化にまで見通せ

るように編集されている。科学教育(仮説実験授業)の授業書にもなってい

る内容である。

 最初は昆虫やほ乳類,鳥類など10体の動物の絵を見せて「足のかずはどう

ですか?」から始まる。ふだん見慣れている動物でも,見れども見れずで急

に問いかけられるとあやふやになることもある。

次は,「アリの 足は なんぼん あるでしょう」と問いかけてアリの絵を描

く場面がある。これは,4本足,6本足,8本足,しかも足の付け根の違いな

どさまざまな絵が出てくるので楽しい。このようにして次々と動物の足に注

目してこの本は進んでいく。新版は一見絵本らしくなっている。現代の本と

して仕方のない面はあるが挿絵がこころもとない。脊椎動物の背骨や金魚の

絵などは旧版の方がいい。子どもの年齢によっては旧版を薦めたい。 

               20164月 1,400

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